現在、土地や家屋を巡る問題には様々なものがありますが、中でも放置出来ない問題のひとつに空き家に関するものがあります。
そもそも「空き家」とはどのような家屋を指すのでしょうか?
「空家等対策の推進に関する特別措置法」によれば「建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地」が「空き家」と定義されています。中でも放置することで倒壊等が発生する可能性があり著しく危険なものや、衛生上の問題が発生するもの、また景観を損ねるものなどについては「特定空家」と呼ばれ対策を急ぐ必要があるとされています。
現時点では大きな問題にはならないものであっても、放置し続ければ危険が及ぶ可能性もあり、いずれの空き家についても対策は待ったなしであると考えられます。
そもそも空き家はなぜ発生するのでしょうか?
原因を調査してみると、そこには生活の変化が密接に関わっていることがわかりました。
まず前提として、現代では少子高齢化が進んでいるということが上げられます。
また、田舎に住む若者が大都市へ流入しているということも要因のひとつとなっています。
大都市へ流入した若者はその流れで就職し、住宅を購入します。田舎には高齢の両親のみが残り、時間を経て若者が完全に都市に定着した頃に両親が死亡し、田舎の土地に住む人がいなくなり場合によっては放置されてしまうという流れがあるのです。
国土交通省の「平成26年空家実態調査」によれば、空き家となった建物に人が住まなくなった理由の上位は、1位 相続、2位 別の住宅への転居、3位 老人ホーム等の施設への入居と、いずれも少子高齢化や若者の大都市への流入が根拠となっているものです。
現在は更に少子高齢化や人口の大都市への集中が進行しているため、何の対策も取らなければ今後も空き家は発生し続けることが見込まれます。
また、不動産の所有に関しての価値観が大きく変化したことも、空き家発生の要因であると考えられます。
かつては不動産を購入し、所有することがステータスのひとつでした。
土地を所有し、一軒家を建て、そこに生涯暮らして子の代へと引き継いでいくということが当たり前だと思われていた時期もあります。
相続に関しても、かつては不動産を遺産として残すことは当然のことと思われていました。
それだけの価値があるものでしたが、現在では先述の通り若者は田舎を出て大都市へと居住地を移しています。
その結果、現在では不動産以外の資産の方が価値を持つようになり、不動産は「負動産」と呼ばれることさえあります。
少し前までは誰もが所有したいと夢見ていた土地や家屋が、大きな荷物と感じられるようになってしまっている――価値観の変化は、土地を所有することに対する意識も変えてしまったのです。
日本の国土に対して、住宅は5.9%と言われています。
残りの国土のほとんどが山林で、そこにも所有者が登記されています。
しかし、登記簿を見ただけではどこからどこまでが所有している土地であるのかということが分からないという難点があります。
それ故に、遺産分割により相続することを躊躇ってしまったり、所有している意識が薄かったりして相続登記を怠ってしまう可能性が高いです。
このように、空き家が発生する原因は様々ありますが、その中でも最も大きな理由となっているのが相続であると考えられます。
先ほども説明したように、若者の都市への流入、定着が進むことにより、世帯当たりの住宅数も徐々に増しています。
昭和33年、1世帯あたりの住宅数は0.96と、全ての世帯が家を持っているわけではありませんでした。1軒に数世帯が同居しているということも珍しいことではなかったのです。
その後、戦後の復興を遂げ、高度成長期に突入した日本ではどんどん住宅を増やし、昭和43年には1世帯あたりの住宅数は1.01となり、ほぼ全ての世帯に1軒の住宅が行き渡るようになりました。
ところが、その後生活に変化が生じ、核家族化が進んだことにより世帯が分割されるようになっていきます。不動産もどんどん増えていった結果、平成25年には1世帯あたりの住宅数は1.16。以降、住宅が余るようになっていきます。
先ほども核家族化が進んだと説明しましたが、昭和45年には、世帯人数が1人又は2人の世帯は34%であったのに対し、5人以上の世帯は25%ありました。
その世帯人員が、平成22年になると1人又は2人の世帯は60%、5人以上の世帯はわずか8%へと減少しています。
昭和45年から平成22年の間に人口が増加しているということを考えても、爆発的に住宅の数が増えたことは言うまでもありません。
では、世帯人数が多い世帯と少ない世帯、どちらの方が空き家になりやすいでしょうか?
これは考えるまでもなく、世帯人数の少ない世帯です。
空き家が増加している原因のひとつは、家族単位の変化であるということがここからもわかります。
平成27年度の「土地問題に関する国民の意識調査」によると、新築住宅と中古住宅のどちらを所有したいかという質問に対し、新築住宅を所有したいと答えた人は62.9%、中古住宅を所有したいと答えた人はわずか2.2%であったそうです。
これは、国による新築優遇政策や新築住宅を入手しやすい金融商品の開発などが原因となっています。
例えば、新築住宅を入手すれば税率が安く抑えられたり、保険や金融政策などにおいても新築である場合の方が得をするように出来ていたりします。
また、直接的に住宅に関わる政策ではない部分でも、新築を手に入れたいと思わせるような施策が様々に講じられています。
例えば、環境保全のためのノーカーボン事業であったり、震災対策のための耐震基準の強化であったりという部分がそれにあたります。
また、新築の住宅を建築する方が経済効果も高まるという点でも、新築の方が優遇されやすい傾向に拍車を掛けています。
こういった状況があったため、中古住宅は割高と感じられるようになり、新築を入手したいと思う人が増えたのでしょう。
預貯金と土地ではどちらが有利な資産と感じるかという質問で、平成5年には60.8%が土地であると答えていたのに対し、平成27年には30%にまで減少します。
かつてはステータスのひとつであった土地家屋を所有することが、現在ではそれほどの価値を持たなくなっているのです。
このように、様々な要因が重なって不動産価値への意識が変化し、新築住宅は増え続けるのに放置される住宅=空き家も増えていくという状況ができあがってしまったのです。
空き家を相続することになった場合、通常の相続とは異なる問題が発生している場合があります。
その問題とは、どのようなものがあるのでしょうか?
数代にわたり相続登記が未登記の場合、その土地家屋を相続する権利を持っている人物が多数になっている場合があります。
この場合、当事者となる人物全てに連絡を取り、その合意を得る必要がありますが、時間を経てしまっている場合にはその捜索だけでも大変な時間と労力、時には金銭的な負担も掛かります。
それでも、当事者が全員揃わなければその遺産分割協議は無効となってしまうため、避けて通ることは出来ません。
相続登記がされていなかった場合、相続人の中には高齢の人が増えていきます。
その場合、例えば認知能力が低下していたり、その他の病気で判断能力が低下しているという可能性も低くはありません。
その場合には、成年後見人や補助人、補佐人などを立てる必要があり、金銭的負担が生じてしまう場合もあります。
何年も空き家として放置されていた場合、相続人と一度も連絡を取ったことがないという場合もあり得ます。
それだけならばいいのですが、その人がどこにいるのか突き止めることが出来ないという可能性もゼロではありません。
まずは捜索するということが第一ですが、どうしても行き詰まってしまう場合も多々あります。
その場合は「不在者財産管理人」を選任したり、「失踪宣告」を行ったりなど、必要に応じて手続きをする必要が生じてきます。
相続人を調査しなければならない場合、思いがけない問題に出会うこともあります。
相続人の第一順位はお亡くなりになられた方の子どもです。子どもが存命の場合は特に滞りもなく相続を行うことが出来ますが、既に死亡している場合やもともと子どもがいないという場合には、第二順位の相続人へと権利が移ります。
その場合、第二順位に尊属がいた場合、注意が必要です。
※尊属:自分を中心に見た場合の父祖の世代のこと
現在の日本の最高齢は118歳です。
ところが、死亡届をきちんと提出していなかったなどの問題で戸籍上の直系尊属が死亡していないことになっている場合もあります。
その年齢が120歳程度を越えていた場合は、どのように扱えばいいのでしょうか?
この場合は、所在地が不明であったとしても調査はしなくてもよい場合が多いです。
日本の最高齢を越える人物が存在しているとは考えられないというのがその理由です。
ただし、その場合には失踪宣告を行わなければ該当する相続人の意志を確認しなかったとして遺産分割協議が無効になってしまうため、注意が必要となります。
これは相続人となっているが行方不明である、という可能性にも該当しますが、所有者が海外に移転している場合もあります。
国内の土地は所有したまま海外に移転し、更にその後連絡が取れなくなって、所在不明となってしまった場合には、まずはその所有者を発見しなければなりません。
これには、いくつかの方法があります。
まずは固定資産税の納税管理人に所在を尋ねるという方法です。
親族などと連絡が取れなくなっていても、法的な手続きに関わる人物とは連絡がとれる可能性は充分にあり得ます。
また、外務省に所在調査の依頼をするということも出来ます。これは、その所有者がきちんと外務省に届け出をしている場合のみ有効な方法ですが、提出された書面を調べることにより、所在地が分かる場合があるのです。
それから、各国にある日本人会や県人会などに所属している可能性もあるため、そちらに問い合わせるというのも有効な方法のひとつになります。
しかし、いずれの方法でも発見出来なかった場合には、不在者財産管理人を選任し、必要な協議や手続きを行うということになります。
発見出来ない場合には後からトラブルになることもあるため、出来る限り所在が分からないようにしたいというのが本音です。
いざ空き家を相続するとなると、様々な手続きや費用が必要となってきます。
まずは空き家を解体する場合です。
この場合、相続人全員が解体に同意することが必要となります。
また、解体時に必要となる費用に関しては、解体後に敷地を売ってそれで充当するというパターンが最も多く、それで合意を得られることがほとんどです。
また、空き家を解体した後には「滅失登記」というものを行う必要があります。
これは専門家に依頼する場合、土地家屋調査士が代理申請することになっています。
解体後、1ヶ月以内に申請を行い、その後に土地を売却するという流れとなります。
先ほども不動産は「負動産」と呼ばれてしまうと紹介しましたが、遠方の土地を相続した場合、管理が面倒であるからと不動産を手放したいというケースも多々あります。
もちろん、そのまま放置することも可能ではありますが、その場合管理を怠ったことにより倒壊し、周囲に被害が及べばその責任は所有者が取らなければなりません。
また、都市計画税や固定資産税などの税金がかかってしまうため、いっそ手放してしまいたいと思う場合も多いのです。
解体や手続きにも手間や時間、お金がかかるということで完全に放棄してしまいたい場合には、管轄の家庭裁判所へ相続放棄申述受理の申立を行います。
これは意外と簡単にすることができますが、相続人が全員放棄してしまった場合には相続財産管理人選任の申し立てを行わなければなりません。
こうなると手間や時間、金銭的負担もかかり、大きな負担となってしまいます。
かといって手続きをせずに放置してしまうと空き家が増えることになってしまうため、これらの手続きを簡略化することが今後の課題となっているのです。
空き家問題に関しては、一朝一夕では解決出来ない様々な課題があります。
それでも、ひとつひとつの問題に向き合っていかなければ、今後も空き家は増え続けてしまうでしょう。
近年では中古物件をリノベーションして活用するなど、新しい活用方法が考案されるようにもなってきました。
相続した土地家屋が不要な場合も、何らかの工夫をすることで価値のある不動産へと生まれ変わらせる方法を考えられれば「負動産」と呼ばれなくなるのかもしれません。