債務整理とは,借金を減額したり支払いに猶予を持たせたりして借金を清算することを指します。
大きく分けると「任意整理」「特定調停」「個人再生」「自己破産」の4種類があり,そのうち借金の減額や支払い猶予を行うのは前者3種類となります。
「自己破産」に関しては財産がないために支払いができないことが裁判所により認められると,高価な財産を失う代わりに借金からは解放されるという方法です。それなりのリスクがありますが,これ以上の支払いをすることは免れます。
しかし最終手段とも呼べる「自己破産」は避けたいという人が多いでしょう。
そのためまずは「任意整理」「特定調停」「個人再生」のいずれかの方法を取ることが多くあります。その場合,それぞれ減額はされるものの支払いは継続することになり,場合によっては減額された金額ですら支払いができなくなるということもあります。
この記事では,債務整理をした後に支払いができなくなってしまった場合,どのようなことが起こるのかを解説していきます。
債務整理後,支払いが続くのは「任意整理」「特定調停」「個人再生」の3種類です。
それぞれ,どのような特徴があるのか整理してみましょう。
・任意整理:貸金業者と交渉し,債務金額や月々の返済額を減らすことによって,支払い金額を減らす手続のこと。減額されるのは利息制限法によって定められた利率よりも高い利息の場合で,利息制限法よりも低い利率の場合には減額できない。
・特定調停:簡易裁判所において債権者と債務者の話し合いを仲介し,返済条件の軽減などが行えるよう調整し,債務者の生活再建を立て直す手続のこと。借金をした当初までさかのぼって利息制限法の上限金利に基づいて引き直し計算を行い,減額された元本をもとに分割して返済を行っていく。
・個人再生:債務の返済ができなくなるなど,経済的に苦しい状況にある場合,将来の給与などの収入によって再生計画を立て,債権者の意見などを聞いた上で裁判所が認めた場合,債務を分割して原則として3年で返済していく制度。
いずれの方法においても借金の返済は継続することになり,支払いができない場合はさまざまなペナルティが発生します。
「期限の利益の喪失」と呼ばれますが,債務整理後に滞納すると,「分割で支払う利益」=「期限の利益」を失ってしまうので,残金を一括で支払うようにと請求されてしまいます。
滞納が続いている場合,裁判を起こされてしまう可能性もあります。判決を取られると強制執行されることになり,給与の差し押さえや不動産の差し押さえが実行され(給与差し押さえの場合は,職場への通知により借金が知られてしまうことも可能性としてあります),生活がひっ迫したりします。
任意整理,特定調停,個人再生のいずれに関しても上記のようなペナルティが発生してきますが,それぞれの債務整理の方法によって細かな部分が異なってきます。
注意すべき点も異なるため,次はそれぞれのケースについて確認していきましょう。
任意整理は,弁護士や司法書士によって債権者との話し合いを行い,利息制限法によって定められた利率よりも高い利息分について減額を行うというものです。
この支払が1ヶ月のみ支払えない場合というのはまだ問題はありません。しかし,2回以上の滞納で「期限の利益」を喪失してしまいます。そのため,入金をうっかり忘れたなどの事情がある場合には即座に支払いを行えば,事実上支払いを継続することができる場合があります。
ところが,2ヶ月以上の滞納を行うと,期限の利益を喪失して一括請求や訴訟を起こされてしまう可能性があります。
任意整理の場合には裁判所を通しての手続ではないため,即座に強制執行されるということはありませんが,非常に不利な立場になってしまうことは否定できません。
ただし,交渉で再調整を行える可能性はまだ残っております。
現状の任意整理の内容では支払えないとわかった場合,交渉を行うことによって2回目の任意整理ができる場合もあります。
ただし1回目よりも交渉は難航し,状況が悪化することも考えられます。
和解交渉に応じてもらえた場合にも,本来は利息なしで行うはずだった任意整理の支払いに対して利息をつけることを求められるなど,最初の任意整理で合意された内容よりも支払いの金額が増えることもあります。
どのような内容になるかは債権者との交渉の結果によりますが,決して有利な内容になることはないでしょう。
再度の任意整理でも支払いは難しいとわかった場合,他の債務整理を検討するしかありません。検討が可能なのは「個人再生」か「自己破産」のいずれかになります。
特定調停は,簡易裁判所において行われる債務整理の方法になります。ここで注意が必要になるのは,すでに「債務名義」を取られてしまっている点です。
「債務名義」とは,判決と同じ効力を持ち強制執行することができるものです。
しかし,任意整理同様,2回以上の滞納で期限の権利喪失となっていることがほとんどのため,1ヶ月だけ払えない場合にはまだ間に合う可能性があります。
うっかり入金を忘れてしまったなどの事情がある場合には,すぐに支払いを行いましょう。
しかし,2ヶ月分以上滞納すると,期限の利益を喪失し,一括請求を求められる可能性があります。先ほども述べましたが債務名義もとられているため,即座に強制執行されてしまうこともあります。この場合も,交渉が全くできないというわけではありません。ただし,交渉で再調整が行える可能性は低いでしょう。
交渉を行っても支払いをすることが不可能な場合,他の債務整理を検討するしかありません。検討が可能なのは任意整理と同じく「個人再生」か「自己破産」のいずれかになります。
個人再生は,借金を減額し利息なしで残りの借金を返していくという債務整理になります。弁護士が代理し,又は司法書士が書類を作成し,裁判所で再生計画を立てることになります。
住宅資金特別条項付きの個人再生は,住宅等の資産は処分せずに維持したまま,債務を5分の1ほどに減額し,減額された債務を完済することができれば,そのほかの借金については法律上返済義務が免除されるという制度です。
また,個人再生には大きくわけて2つの種類があります。
主に個人商店主や小規模の事業を営む人を対象とした個人再生手続のこと。
〇 借金などの総額(住宅ローンを除く)が5000万円以下であること
〇 将来にわたり継続的に収入を得る見込みがあること
上記の用件を満たしている場合に行うことができます。
主にサラリーマンなどを対象とした個人再生の手続のこと。
〇 借金などの総額(住宅ローンを除く)が5000万円以下であること
〇 将来にわたり継続的に収入を得る見込みがあること
〇 収入が給料などで,その金額が安定していること
上記の用件を満たしている場合に行うことができます。
個人再生は債務者にとって非常に有利な制度である反面,滞納に関しての制限はかなり厳しく定められています。
任意整理や特定調停とは異なり,個人再生の場合は滞納が許される回数が定められていません。そのため,1回でも滞ると再生計画を取り消されてしまう可能性があるのです。
また,債権者が複数存在している場合,債権額のうち10分の1以上を貸し付けている債権者は,滞納を理由に再生計画の取り消しを求めることができます。
また,10分の1以下の貸し付けを行っている債権者についても,訴訟を起こすことで再生計画の取り消しを求める可能性があります。
再生計画で取り決められた債権の減額がなかったことになります。
また,期限の利益もなくなるため,一括返済も求められてしまいます。
病気や怪我,リストラなど自己の責任ではないやむを得ない事情がある場合には,支払期間の延長を行える可能性があります。
月々の返済額を減額し,長期間にわたって残りの金額を返済していくということになります。
それでも支払いができない場合には,自己破産を選択することになります。
債務手続は,司法書士か弁護士に依頼して行う必要があります。
その場合,当然ながら司法書士や弁護士に支払う費用が発生することになります。
費用は基本的に分割払いとなりますが,その支払いが途中で途切れた場合,司法書士又は弁護士への依頼はキャンセルとなり,手続に関しても辞任されてしまいます。
その際,途中まで支払っていた費用は返却されない場合があります。既に稼動していた期間となるため,途中で辞任となった場合にも返却しなくて構わないことがあるためです。
もっとも,債務整理を行うほど切羽詰まった状況の場合,弁護士や司法書士の費用を工面できないということも多いでしょう。
そういった場合には,「法テラス」を利用することがお勧めです。
法テラスは国が設立した法的トラブル解決のための案内所です。
ここを利用した場合,収入等の条件はありますが,弁護士や司法書士に支払う費用を法テラスが立て替えてくれるため,費用の理由から途中で辞任されてしまう危険性はありません。
また,立て替えてもらった費用はゆっくりと無理のないペースで分割返済できますし,法テラス基準の金額で依頼ができるため,無理のない費用である場合がほとんどです。
その収入の条件は,家族の人数に応じて変わってきます。
申込者及び配偶者の手取り月収額(賞与を含む)が下表の基準を満たしている必要があります。
人数 | 手取月収額の基準 | 家賃又は住宅ローンを負担している場合に 加算できる限度額 |
---|---|---|
1人 | 25万1,000円以下 (27万6,100円以下) | 4万1,000円以下 (5万3,000円以下) |
2人 | 25万1,000円以下 (27万6,100円以下) | 5万3,000円以下 (6万8,000円以下) |
3人 | 27万2,000円以下 (29万9,200円以下) | 6万6,000円以下 (8万5,000円以下) |
4人 | 29万9,000円以下 (32万8,900円以下) | 7万1,000円以下 (9万2,000円以下) |
※東京,大阪など生活保護一級地の場合,()内の基準を適用します。以下,同居家族が1名増加する毎に基準額に30,000円(33,000円)を加算します。
※申込者等が,家賃又は住宅ローンを負担している場合,基準表の額を限度に,負担額を基準に加算できます。居住地が東京都特別区の場合,()内の基準を適用します。
立て替えを希望する場合には,この他に資産の要件を満たす必要もあります。
その際,審査に必要となる書類もありますので,必要な書類を揃えた上で申請を行いましょう。
資産の要件や審査に必要な資料など,詳細は法テラスのホームページ内に記載がありますのでご確認ください。
また上記の要件を満たす場合で,「民事法律扶助の趣旨に適すること」という要件も満たしている場合には,1つの相談につき3回までは無料相談を利用することもできますので,あわせて活用することも可能です。
債務整理を行い,最終的に自己破産をしてしまった後は,官報に自己破産の事実が載るのと同時に,信用情報機関に最長10年間は自己破産をしたという情報が残ってしまいます。これがいわゆる「ブラックリスト」と呼ばれるもので,ブラックリストに載っている間は融資などを受けることができない場合がほとんどです。
しかし,それでも借金をしてしまうという場合もあるでしょう。
その借金が支払えなくなってしまった場合には,任意整理等を行うことができます。
また個人再生については,給与所得者等再生に関しては認められない場合がほとんどで,小規模個人再生は行うことができる可能性があります。
しかし,それも認められない場合はどうしたらいいのでしょうか。
2回目の自己破産については,7年間の免責があります。基本的には行うことができず,行えたとしても1回目よりも条件は厳しくなっています。どうしても支払いができないということが認められる場合のみ可能で,浪費が原因による借金の場合には認めらない可能性が高いでしょう。
必ずしも方法がないというわけではありませんが,基本的にはできないというつもりで,何度も借金を重ねることのないように注意しましょう。