そもそも委任状とはどのようなものなのでしょうか?
既にご存知の方も多いかと思いますが、一度おさらいしてみましょう。
「委任状」とは、一定の事項をある特定の人に委任したことを書き記した書状のことです。
相続登記以外にも、さまざまな場面で委任状を書く機会があるのではないかと思います。
委任状は、それぞれの場面において記載すべき内容に若干の違いがあります。
不動産の相続人が司法書士等に相続登記の申請を依頼する際にも委任状が必要となりますが、その記載の方法にもいくつかのポイントがあります。
この記事では、その記載方法や具体的な記載例について確認していきましょう。
相続登記に関わる委任状については、参考になる本などを購入して作成することもできますが、法務局のホームページにも雛形が載っています。
その雛形を使用して作成することも可能ですので、こちらも適宜参照し、利用できる部分は利用してみてください。
21)所有権移転登記申請書(相続・遺産分割)
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/minji79.html#19
の記載例を参照ください。
それではまず、記載すべき内容を簡単に確認してみます。
1) 誰から誰に委任するのか
受任者の住所氏名が必要となりますので、どう記載すべきかを事前に確認しておきましょう。
2) 委任事項の内容
法務局の雛形通りでも問題ありませんが、記載しなくても問題ない部分もいくつかあります。
こちらについては後ほど雛形を用いて具体的に紹介しますので、ご参照ください。
3) 日付(委任日)
委任の開始は「被相続人が亡くなった日」以降の日となります。
よって、死亡日前の委任はありえませんのでご注意ください。
なお、委任状には有効期限はありませんので、一度作成すればずっと使用することが可能です。
4) 委任者の住所・氏名・押印
こちらは、直筆でなければならないのか? という問題が生じてきます。
それについては別の項で詳しく解説しますので、そちらをご参照ください。
5) 登記事項の記載
この項目については、相続の場合は必ず書いた方がいい箇所となります。
具体的には下記の通りです。
・登記の目的(所有権移転か、共有持分全部移転か)
具体例は雛形を用いた説明部分をご参照ください。
・登記原因
「〇年〇月○日相続」(被相続人が死亡した日)といった形で記載します。
・不動産の表示
登記簿謄本通りに記載すれば問題ありません。
ただし、マンションの記載の場合には注意が必要となります。
この項目に関しては、必ず記載するようにしてください。
これらの内容を、参照すべき書類(登記簿謄本等)を参照しながら記載していきます。
書かなくても問題のない項目もあると説明いたしましたが、悩んだ場合には全てを記載しておけば間違いはありませんので、省略せずに全て記載してください。
それでは、実際の雛形を利用してもう少し詳しく見ていきましょう。
なお、雛形は先ほどご紹介した法務局の「所有権移転登記申請書(相続・遺産分割)」を引用しています。
委 任 状 |
私は,○○市○○町○○番地 乙野二郎 に,次の権限を委任します。 1 下記の登記に関し,登記申請書を作成すること及び当該登記の申請に必要な書面と共に登記申請書を管轄登記所に提出すること 不動産の表示 所 在 ○○市○○町一丁目23番地 |
引用元:法務局HP
上記のように記載すれば問題ありませんが、3カ所注意点がありますので解説いたします。
※1
1~5の5点の記述について、実は全てを記載する必要はありません。
5に記載されている「登記の申請に関し必要な一切の権限」には、3の「不備があった場合の取り下げや補正」が含まれるため、5さえ書いてあれば、3は記載しなくても問題ありません。
2の「登記識別情報通知書や登記完了証の受領」は、必ず記載しておきましょう。
また、4の「登録免許税の還付金の受領」についても、登記そのものとは別の手続きとなりますが記載しないと、登録免許税の還付金額に間違いがあった場合に、委任した司法書士等ではなく申請者本人に通知がいってしまうため、記載しておいたほうが無難でしょう。
基本的にはこの書面は手書きである必要がないため、上記に記載されている内容をそのままコピーし、ワードや一太郎等のワープロソフトで作成すれば問題ありません。
※2
基本的には手書きである必要はありませんが、後日の紛争の予防のために氏名の部分は直筆である方がよいです。
そのため、ワープロソフトを使用して作成する場合にも、氏名の部分のみ空欄としておき、直筆で記載するようにしましょう。
一言で「相続」と言っても、被相続人の残した遺産にはさまざまなものがあります。
財産、土地家屋、所有していたその他の物品、権利書等。
それらを相続する資格を持つ人全員で分け、それぞれの所有権が決まることになると思います。
その際、土地や家屋については分割して相続するケースもあるかもしれませんが、誰か一人が相続するという場合もあるでしょう。
相続登記の委任状における「相続人」とは、この土地や家屋などの不動産を相続した人のことを指します。
もう少し丁寧に説明していきましょう。
例えば、Aさんが土地を遺して死亡した場合を考えてみます。
Aさんには、配偶者のBさんと、子どものCさん、Dさんがいるとします。
この場合、相続の方法と相続登記における「相続人」としては、数パターン考えられます。
1) Bさんの単独相続……相続登記における「相続人」はBさんのみ
2) BさんとCさんの共同相続……相続登記における「相続人」はBさんとCさん
3) Bさん、Cさん、Dさんが3人で共同相続……相続登記における「相続人」はBさん、Cさん、Dさんの3人
このように、不動産の相続に関わらない人物が相続登記における「相続人」から外れることになり、当然、委任状等に署名や捺印を行う必要もなくなります。
相続登記を誰が行うかは、大きく分けると2パターンあります。
申請者本人が行う場合と、司法書士又は弁護士といった専門家が行う場合です。
1) 申請者本人が相続登記を行う場合
先ほどの相続の具体例で、Aさんの遺した土地を相続する権利を持つ人がBさん、Cさん、Dさんと存在している場合を考えてみます。
Bさんが単独相続する場合には、申請を行うのもBさん本人になり、他の人は関わらないため、委任状も不要です。
しかし、BさんとCさんの共同相続、またはBさん、Cさん、Dさんでの共同相続の場合には、相続登記そのものを行うのは誰か1名になる場合もあるでしょう。
例えばBさんが代表して登記を行うことになった場合、残りのCさん、Dさんは「Bさんに登記を委任した」という形での委任状を作成する必要があります。
委任状の冒頭にある「私は,○○市○○町○○番地 乙野二郎 に,次の権限を委任します。
」の部分にBさんの住所・氏名を記載します。
2) 司法書士又は弁護士に依頼する場合
相続人本人ではなく、専門家に書類の作成や申請を依頼する場合には、全ての相続人の名前を記載して委任状を作成します。
Bさんの単独相続ならばBさんのみ。
Cさん、Dさんも共同相続する場合には、CさんやDさんの分も、といった具合です。
この場合は委任状の冒頭にある「私は,○○市○○町○○番地 乙野二郎 に,次の権限を委任します。
」の部分に専門家の住所・氏名を記載します。
この場合の住所は、基本的に専門家の事務所の所在地を記載することになります。
※注意
時に「白紙委任状」と呼ばれるものが存在します。
事前に用意されている委任状に、委任事項が具体的に書かれていない場合があります。
専門家が用意してくれるものだからと安心し、油断してしまうかもしれませんが、必要な事項がきちんと記載されているか、余分な事項が記載されていないかをきちんと確認して、不明点は司法書士に質問して疑問点を解消しておくようにしましょう。
「申請人が複数となる場合」というのは、先ほどの相続登記における相続人の際に説明した、「BさんとCさんが共同相続する場合」や「Bさん、Cさん、Dさんが共同相続する場合」といった共同相続のケースを指します。
なお、マンションの相続で共有持分全部移転により1人の方が相続し、結果として共有となる場合については該当しませんのでご注意ください。
●共同相続する場合の委任状は何枚用意すればいい?
申請人が複数となり、共同相続する場合は委任状を複数の人物が作成しなければならないケースがあります。
そういったケースでは、委任状は何枚作成しなければならないのでしょうか?
これは、特別な決まりはありません。
1枚の委任状に2名、3名と連名で名前を記載しても構いませんし、遠方に住んでいるなどの事情で同時に作成ができない場合は、それぞれ個別で作成し、直筆の署名や押印を行って受任者に渡しても構いません。
必要に応じて選択するようにしてください。
不動産の相続は決して安いものではありません。
そのため、委任状に記載する住所氏名も必ず直筆でなければ……と思う方もいるかもしれません。
結論から言うと、必ずしも直筆である必要はありません。
パソコンによる印字やゴム印等でも作成することは可能です。
ただし、直筆の方が証拠力の観点から後日の紛争の予防になるという点は否めませんので、可能な限り、氏名は直筆で記載するといいでしょう。
ひとくちに「印鑑」と言っても、「実印」と「認印」の二種類が存在しています。
提出する書類の種類によって、認印でも問題ない場合と、実印でなければならない場合があります。
例えば、相続登記に関する書類の場合、「遺産分割協議書」に関しては実印でなければ認められません。
もちろん、印鑑証明書も必要となってきます。
しかし相続登記の申請書に使用する印鑑や、相続登記の委任状に使用する印鑑は、いずれも認印で問題ありません。
いずれにしても、委任状には必ず印鑑を押印しなければなりませんので、忘れないように注意しましょう。
未成年は、単独では法律行為を行うことはできません。
そのため、必ず成人した親権者または未成年後見人を立てる必要があります。
その際に必要になるのが、親権者の戸籍謄本(発行後3ヶ月以内であることが必須)か、未成年後見人の登記事項証明書が必要となります。
特に、相続登記においてはほとんどの場合に必要書類の有効期限が定められていない中、代理人としての親権者の戸籍謄本には期限(発行後3ヶ月以内)がありますのでご注意ください。
このように、委任状にもさまざまな種類があるため、記載事項には細かな注意点があります。
今回ここでご紹介しているのは相続登記にまつわる委任状の注意点になりますので、他の委任状の場合(例えば売買等)には、記載事項や印鑑の種類などが異なるケースもあります。
何を記載する必要があるか、何を用意しなければならないか、必ず確認してから作成するようにしましょう。